2015年12月8日

ウェービングと木部


同業の知人からの注文で、ソファーベッドの木部製作とクッション部の下ごしらえ、椅子張りを行っています。


一般的には分業でおこなう木部製作、椅子張り。
これを一人でまかなうのは比較的大変なのであまり自分からは製作しよう
は思いませんが、今回注文をいただいたので久しぶりに重い腰を上げました。

身の回りにあるソファーや椅子などの張り物、内部の細かい納まりまで判る人はあまりいないと思います。
ウェービング・ベニヤ・バネ。下地に入れるクッション基材の種類で、木部の構造も
表側のデザインも座り心地も異なってきます。

普段何気なく見ているだけの張り物の木部。それだけでも勉強になっていたようです。







2015年12月3日

階段転落防止柵


今回は少し毛色が違いますが、階段の転落防止柵を製作・取り付けしました。


以前、ベビーサークルを注文していただいた豊島区のK様。
2人目のお子さんが誕生し、つかまり立ちを始めたのでなるべく早急に納品すべし、
というお仕事でした。

今回は建築設計をしているKさんが図面を引いてくださったので、こちらは
現調・実施検討と製作を担当しました。

材料は前回とおなじくブナのソープフィニッシュ。
ブナはブナでも今回はヨーロッパビーチが手に入りました。
日本のブナよりも色が白い、と云われているヨーロッパビーチですが
加工をしていても目が詰まっている、というか、非常に粘り気がある気がしました。
うまく言葉にできませんが、昇降盤で木を裂いていてもしっとり、ヌルリとした
手応えがあるのです。




現場では既存の手すりを利用して吊り元の柱を立てました。
正面の柱を裏面から薄い板で挟み込む構造ですが、ネットのフックや斜めから走る
手すり本体をかわす事に苦労しました。





お客さま支給の金物で扉を吊り、形になりました。
もう少し細部の納まりに課題が残りましたが、その場の雰囲気によく合った
転落防止柵だと思います。

奥さまから「現状は部屋と階段が扉一枚で仕切られているだけなので子どもが非常に
不安だった。この柵で安心できます」というお言葉をいただいたとき、こちらも
なぜか安心し、家具には(今回は微妙に家具とは違うけれど)家族の時間に密着した
そんな役割もできんだなあ。と考えていました。

家の具と書いて『かぐ』。昔の人はよく云ったものだ。




2015年11月15日

木味


先日、楢材で薄板を作るために材料を半分に挽き割りました。
一枚の板を挽き割り、本を見開いたように並べると、当然その二枚の板は
左右対称の木目になります。


bookmatch(ブックマッチ)と呼ばれる状態ですが、その美しさに目を引かれ作業の
手を止めて見入っていました。

おそらく北米からはるばる海を越えてやってきたこの材料。
どんな場所で生長したのだろう。
どんな環境で大きくなったのだろう。

いつもは木材を見てその来歴よりも、傷があるかどうか、節があるかどうか、など
材木としての弱点という視線でしかものを見ていなかったのですが、節や逆目などを
生体の魅力として考えた途端に、材料の見え方がはっと一変しました。


一昔前の製材屋の老職人ならば、一目でその木材の年齢や生育環境を見抜いたはずです。
自分たちは自然のものを相手にものを作っていることを、あらためて再認識しました。

材料の魅力だけに頼った家具は作りたくありませんが、そのようなことにも考えがおよぶ
余裕と力量を持ちたいものです。







2015年10月23日

毎日のこと


近ごろずっと考えている。
木で家具を作る、という事。

そもそも木という生き物の体を、切って削ってモノを作っている以上、
毎日の食卓に出て来る牛や豚や、野菜、魚・・・・
そんな食材と何も変わらないのではないか。

そんなもので家具を作るのだから、食べ物と同じで
いただきます。ありがとう。ごちそうさま。と考え
何も無駄には出来ない。と意識する。

そうして毎日手を動かし、暮らす中でふと思った。
木で家具を作る、という事。

木でないと作れない。木だから作れた。
という物を作るべきなのか、

木なのに作れた。木とは思えないものを作れた。
という物を作るべきなのか。

この2つは思考の方向が全く異なっていると思う。
そして両方とも正解だと思う。

自分はこれからどの方向へ舵をきればいいのか。
近ごろ、こんな葛藤にも似た気持ちを抱いて毎日を過ごすようになった。

過日、木とは思えない、木でないと作れないもの。と考えていて
突然頭の中に閃いた家具がある。

何日も何週間も考えて突然頭に降り注いだアイデア。
まさに頭の中で電球がはじけるような。目の前が一気に拓けるような。

その閃きがそのまま製作出来るのかは判らないが、あまりの嬉しさに興奮し、
その晩はまくし立てる様に喋り続けたことを覚えている。

ところが数日前、何となく見つけたインターネットの木工サイト
他の製作者が既にそんな家具を製作していることを知った。
自分の思いついた家具が目の前に現実にあり、そして想像通り
それはとても美しく、とても独創的な家具であった。

モノを創る。ということは難しい。










2015年10月4日

意外な仕事もあるもんだ


以前ダイニングテーブルハイバックチェアを納品した三重県のBさんより
ピザ窯型枠のご相談をいただきました。

大きさは直径600mm・高さ300mmの半球に窯口部分の鼻が付く形です。

自身が経営する築炉会社で「軽トラックの荷台に載るような大きさの」ポータブルピザ窯を開発することになり、そのための
耐熱タイル用の型を木材で製作することになりました。

築炉屋さんという、珍しい職業のBさん。
なかなか耳にすることも少ない仕事ですが、普段は陶芸窯等の製作はもちろん、産業用の高熱炉の周囲に耐火レンガで
耐熱壁を築いたりしています。
そのノウハウを生かし、さらに間口の広い仕事を創る目的で、今回のピザ窯の企画が出たようです。

お話をいただいた当初は家具屋のウチではなく、木型屋さんの仕事のように思いましたが
Bくんの熱い口調にほだされて挑戦することにしました。


製作は加工のしやすさと完成後の取り回しを考え、桐で製作しました。
桐の集成材をさらに積層してかまぼこ形に削り、さらに半球に削り出していきました。
その大きさから木工旋盤で回転させることも難しく、電気鉋で荒削り後、手道具で削ることになりました。






本体の半球削りの他に、窯口と本体の削り合わせが3次元のRになるため
苦労しましたが、型枠として問題ない納まりになりました。



それともうひとつこの仕事を難しくした要因が「型枠を使い耐熱タイルで形を作ったあと、窯口から型枠を分解して
出せるようにする」という事でした。

これも上下6分割できるようにして問題をクリアしたのですが、削り加工する前にブロックを6つ作り、
それを仮止めしてから半球を削りました。




同じ木材で製作するとはいえ、家具とはまったく異なる今回のお話。
こういうことにも手を出してみると何かの経験になり、また新しいものにつながるのかな、と
形にできた故の安堵感の中で考えています。



「藤原築炉」
三重県いなべ市藤原町石川1179
0594-46-4095







2015年9月6日

ワードローブリメイク


大和市のSさまより、ワードローブのリメイクのご相談を受けました。

昔、よく見ましたね。

Sさんの奥様の、亡くなった母上の婚礼家具だったようです。
相談をいただき実物を拝見したときは、合板でできたこの家具を細かくして
無垢材と組み合わせ、いくつか別の小さい小物入れでも作ろうかな、と思いました。

しかし実物を引き取り、明るい工場で詳細を調べると、表面の化粧合板が予想以上に傷んでいたことに気がつきました。
製作されておそらく40年は経っているこのワードローブ、接着剤も劣化していたのです。

ここで悩みました。家具を細かくするのに鋸をいれると、おそらく表面の合板がばりばりになるかもしれない。
そうなると修復は出来なくなる。
奥様の家具への思い入れも強いし、亡くなった故人の品を台無しには出来ない。


・・・そこで方針を変更して、ワードローブ下部の引き出しを流用し、その奥行きを詰めて
チェストを製作することにしました。








本体をチェリーで新しく製作。寸法は 1000(w) × 600(h) × 430(d)
打ち合わせでご希望の寸法をお聞きした時に、ひょっとしたらテレビでも
載せるのかな、と思ったので使い勝手の良さと配線のことを考え、最終的には
上部スペースの背板を一部オープンにしました。





新しく建てたお家にワードローブを置くスペースが無いから、と依頼されたこの仕事、
緊張して納品にお邪魔したのですが、Sさんの奥様、「格好いい!これで母も喜びます」
嬉しいお言葉です。

そして納品したお部屋で目にしたのはテレビの載った小さな台。
「これの変わりに使います」
これもまた目論み通り。安心しました。

8月にかわいい女の子の産まれたSさんご夫婦。タイミングよく納品できた
このチェストも、この子が引き継いでくれればナ〜。などと考えていました。

Sさん、ありがとうございます。




2015年8月5日

やっとできた。ハイバックチェア


家具屋の最重要課題として、以前から作らねば、作らねば。と呪文のように
唱えていたオリジナル椅子製作。
苔の一念、岩をも通す。呪文が通じたようです。


材料はチェリー、座を椅子張りで仕上げました。

注文してくだすったのは、おなじみ三重県のBさん。以前据え付けベンチテーブルを納品しましたが、そのとき同時にダイニングチェアのご注文もいただいていました。

製作の順番から椅子は後納品にさせてもらったのですが、テーブルの納品時に普通の背さのダイニングチェアの原寸モックアップを製作し、B君に見てもらいました。
するとB君、おそろしく真剣な目つきでその試作品を眺め始めました。
そして・・・

「ん〜、これなあ。。。もうすこしなあ。。。ハイバックがええなあ。」
「え?」
「ハイバックがええ!これじゃあこの空間に負ける!もっと!もっと存在感が欲しいねん!」
「存在感?」
「そうや!こんなに背が低いともう・・・空間に負けてる!」
「普通の椅子はだいたいこんな高さやで」

「さらに後脚から背が弓なりで、脚が踏ん張ってる感じにして欲しい!」
「・・・」



手縫い。


またもやのやり取りの末、詳細が決まりました。
ここからの椅子の製作は結構な手間がかかります。

1  スケッチを起こし、大体のデザインを決定。
2  1/5の図面を引き、同スケールの模型製作、プロポーション決定。
3  原寸図を起こし、実物試作を製作。座り心地や細部を調整、完成形決定。
4  木部製作

他の人のやり方は判りませんが、だいたい皆さんこんな感じでしょうか。
今回のハイバックチェアは座面を張り込んであるため、さらに
座のクッション下ごしらえ・布地の型取り・裁断・縫製・張り込みまで行います。

こんな手間を考えると椅子製作は割にあわない仕事ですが、やはり華やかで面白い。



納品したB君にも「イメージ通り、イイよ!かなり!座り心地も気持ちイイ!」と好評で安心しました。


この後さらに背当たりの修正と細工をしました。

椅子の製作は時間がかかるため随分時間をいただきましたが、ようやくそれが済みました。
製作中は様々な困難と向き合いますが、いざ完成すると次に作りたい椅子が次々と湧いてきます。

いつも新しいことに挑戦する機会を作ってくれるBくんに感謝。
そして長らくお待たせしました。






1/5模型





2015年6月23日

鉋を買う


最近鉋を買いました。東京鍛冶で有名な「も作」こと神田規久夫さんの鉋です。

この神田さん、東京足立区のほうで鉋鍛冶をし、よく切れる。と評判なのですが、最近は高齢のためか
製品が出回ることもあまりなく、どの道具屋さんに聞いても「今は扱っていない」という返事ばかりでした。

ところが、ふとしたきっかけで話をした別の道具屋さんに在庫があり、在庫の7寸台(210mm長)の台を
希望の8寸台(240mm)に作り直して販売できる。ということになりました。
こうなるともう我慢できません。いても立ってもいられず、すぐに台の打ち直しを注文し、そして届いた鉋の
ヤスリ目の美しさにうなり声をあげました。

48mm幅。これから仕込み。


今回自分が鉋を買うにあたって「東京鍛冶」にこだわったのは理由があります。
東京には石堂鉋という、名門と呼ばれる鍛冶屋さんがあります。
この石堂さん、何百年と続いた刀の鍛冶屋が転身して鉋鍛冶を始め、現在は栃木に移転。
石堂良孝さんが50代の若さで跡をついでいます。

自分が以前勤めていた都内の木工所の先輩が、その良孝さんと幼なじみだったのです。

ある日の会話。

「Sさん、石堂さんていう昔ッからの鉋の鍛冶屋さんが東京にあるらしいですね」
「お前鉋買うの?そこ、東京のどこだ?」

「恵比寿らしいです」

「・・・恵比寿の石堂?・・・あっ!俺知ってる」

「えっ!いま良孝さんって人がやってるらしいですよ。どうして知ってんすか?」
「石堂って俺の幼なじみの家だよ!あそこは鍛冶屋だったんだな。いま良孝が跡ついでんのか。あいつは小学校の・・・」

「こんなに近い仕事なのに鍛冶屋って知らなかったんですか?」
「知らねえよ。ガキの頃から親父さんがなんかやってんな。とは思ってたけど」

意外なところから話がつながり、さっそく石堂さんの電話番号を聞き、直接先代の女将さんと話をしました。

「Sくんのお知り合い?そお、Sくんいま家具屋さんにいるの。知らなかった」
幼なじみとは面白いもんです。


昔の東京の商売人らしい、歯切れのいい口調のお話を聞いたのですが、その時聞いた鉋の値段は立派なもので
当時の自分には手が出ないうえに、若い跡取りがいるのだからそのうち買おう。と思ってその話は
後回しになっていたのです。

そして数年経ち、いざ鉋を買おう。と思ったのですが、その連絡先は紛失していました。
さらにその良孝さん、ここ数年仕事を休んで、いま石堂鉋というものがほとんど市場に出てこなくなった。と
道具屋さんで聞きました。

せっかく東京近郊で家具を製作しているのだから、歴史のある東京鍛冶が無くなる前に
一丁くらい手元に置いておきたい。とこだわったのです。



今はほとんど鉋も使われなくなり、鉋なんかよりサンダーのほうが早くて楽、というのが大半の家具屋の正論でしょう。
しかし家具を製作している以上、やはり鉋を使うのは基本中の基本だし仕事の質も幅も広がります。
そしてそれ以上に、鉋もまともに使えないような人間がそんなことを言うのは何か違う気がしています。


自分ももっと修練をし、どんな鉋でも自由自在に使えるようになったら「ああ、サンダーのほうが楽やねえ」
そんなことを云ってやろう、と考えています。













2015年6月12日

四角いダイニングテーブル


町田市 Iさまからのご注文でダイニングテーブルを納品しました。
ベンチはショウルームから貸し出しです。

材料はチェリー。
2000w × 900d × 660h と、大振りの天板と若干低めの寸法のテーブルです。
Iさん、あちこちの家具量販店を見て回った揚げ句、工房に来ていただきました。
最初は耳つきのクリで作ろうか、T字脚にしようか、寸法はどうしようか。と
ご夫婦でケンカ 話し合いになりました。
そして結局オーソドックスな4本脚のデザインに決定しました。






形がシンプルな分、素材のチェリーの存在感が非常に目立つテーブルになりました。
1年後には綺麗な褐色に変化していることでしょう。



そして今回、ダイニングチェアーの改造・張り替えまでご注文いただいたのですが、
注文をいただいたIさん、家具の使い心地や納まりに非常に気を使われる方で、果たしてどのような方なのだろう。と
お話を聞くと、様々なことに興味をお持ちの趣味人だと判明しました。

写真、陶芸、旅行、自転車 etc,etc・・・。
そんな方にテーブルを選んでいただき光栄に思っていたところ、一言いただきました。
「やっぱこのベンチいいね!これも作ってよ」

ごっつぁんです。
またお二人でケンカ 話し合いが始まり、仕様が決定しました。
がんばります。




2015年5月22日

カウンター下に収納を


横浜青葉区Tさまのご注文で、カウンター下にオープンの棚を製作しました。

材料はチェリー。 寸法は1480w × 1018h × 210d
新居に引っ越されたTさん、横積みになっていた本の収納場所と、キッチンカウンター下のデッドスペースの
有効活用として注文いただきました。


収納する本に対して、縦寸法も奥行き寸法もシビアなこの場所。強度と使いやすさでせめぎ合い、背板を無しにして
部材の板厚を薄くすることでCDや書籍のスペースを稼ぎ出しました。

出巾木やカウンター天板との兼ね合いもあり、また建築が相手なので、直前に棚の天板を
0.5mm削ったりとバタバタしました。


納品の日は高さを調整する道具一式と、不安を持って現場にお邪魔したのですが、両方とも杞憂に終わりました。

無事納まった棚にうきうきして本を立てかけて行くTさん。
手直しもなく納まった安堵と、そのリビングの柔らかい光と心地よく抜けていく風。
この棚がこれからどのような変化をしていくのか、楽しみです。





・・・関係ありませんが、現場がうまくいった後、コンビニでついつい
食べるものがあるのですが、この納品の帰り道で頬ばったそれも
とにかく美味かった。

閑話休題です。




2015年5月2日

靴脱ぎに・・?


横浜青葉区のSさん宅にスツールを納品しました。

Sさんとは他の仕事で何度かご注文をいただいているのですが、今回は玄関まわりで靴を脱ぎ履きする
台をつくってほしい。というお話でした。

ひょっとしたら屋外でも使う。というお話だったので、まっ先に浮かんだのは耐水・対汚をどうしよう
か、ということでした。
そのためにコストや入手しやすさを考慮し、材料は栗材を選択しました。
栗はひさしぶりに使うのですが、なんとも優しい雰囲気の材料です。
自分も定番材として扱うことに決めました。


このスツール、その使用目的から、おおまかなデザインは自然と出来
上がったのですが、その他にも細かい意匠を加えてみました。

Sさん、納品したスツールをご覧になって「あぁ、もったいなくてしば
らくは使えない!」
喜んでいただけました。いつもこの声を聞くたび、どっと安心します。

最近、とろけるような感じ、好きです。



私見ですが、近ごろ世の中のプロダクトが「ぐわっとした」押し出しの強い、
すこし過剰なものが主流になっている気がします。
それはそれで存在感があるのですが、なんだかあまりにも強いものばかりに囲まれる生活はどうなんだろう。
この潮流が変わったとき、それらはアッという間に陳腐なものになるのではないか、と考えてしまいました。
「ああ、あの頃はこうだったね〜。今見るとなあ・・・」なんてね。

もちろん世の中の流れとつながってものを考えないといけないのですが、
では自分はカワイすぎない、どこか柔らかい雰囲気の家具を作ろう。と
思っていますが、なかなか。

古びないけど飽きられない形ってどんなだろう。今日も図面を前に頭を抱えています。





さあ、遠慮せずに