2015年2月15日

マグネットハンマー


家具製作といっても様々な専門職があり、それぞれに専門道具があります。
テラモトでは木工、椅子張を行っていますが、その中で椅子張に使うマグネットハンマーをご紹介します。




マグネットハンマー、名前のとおり頭が磁石になっています。
口の中に3分釘(9mm釘)や5分釘(15mm釘)を含んでおき、ピンと張った張り地を片手でおさえながら
口のなかの釘を空いた一方の手に持ったハンマーの頭にくっつけ、釘を打ち込み張り地を留めていきます。

現在は張り職でもあまり使われなくなったマグネットハンマー、慣れるまでは大変ですが
一度慣れると狙ったところに釘が打てるようになり、非常に便利です。

このハンマー、少し前までは鍛冶屋さんが張り道具の入った段ボールをバイクの荷台にくくりつけ
あちこちの工場を売り歩いていました。
職人が自分の道具や気に入ったハンマーの頭を買い、それを自分で柄にすげて使用するのです。

面白いのは手作りの証なのか、柄をすげる櫃穴やハンマー自体の形がそれぞれすこしづつ違いました。
そしてそれを各々が自分で削りだした柄にすえる・・・。
この時点で世界にひとつだけの自分用ハンマーが誕生します。

大量生産のものを機械ですえるわけではないので、ハンマーのバランス、頭の角度、
振ったとき頭の当たる場所、柄の長さ、握り。すべてがそのハンマーのみのオリジナルのものになります。
そしてその自分のハンマーで釘打ちを覚えると、他のハンマーはまったく使えなくなります。


自分用、親方A氏用、親方K氏用。
全然違うでしょ。

 何十年というキャリアを持っていた親方に自分のハンマーを貸した時も、まったく思い通りに釘が打てず
「こんなに打てなくなるとは思わなかった」と呆れていました。


そして自分も他人のハンマーでは釘が打てなくなりました。


そうなると人間面白いもので、自分のハンマーを非常に大切に扱うよう
になります。
働き出してまだ時間の浅いころ、人から借りていたハンマーの柄がぽろりと
折れたことがあります。
柄に寿命がきていたようですが、今思い出すとなんとも言えない気持ちに
なります。



椅子張りには他にも様々な道具があります。
木工道具ほど一般的なものではありませんし、使用する機会もどんどん
減ってきています。
また機を見て紹介できれば、と思います。




2015年2月11日

デッドストック家具


目黒区のお客さまからのご注文で、40年以上前に製作されたと思われるオットマンを張り替えました。

張り替え前

最初拝見してお話を聞いたところ、ずいぶん大昔、買ったまま倉庫で眠っていたものが最近出てきた。とのこと。
中身に問題がなければ表地のみ張り替えてほしい。というお話でした。

仕事を引き受けたときは、使われていなかったのならばそのまま張り替えられるかな、と
思っていたのですが、布地をはがしたときその考えが甘かったことを認識しました。



確かにこの家具が使用されていた痕跡はなかったのですが、材料が古すぎて枯れ切っていたのです。

このままではいつまで耐えられるかは時間の問題だし、せっかく張り替えるのならば
中まできちっと手を入れましょう!という事で、綺麗だったワラ土手とバネはそのまま流用し、
あとはすべて入れ替えることにしました。

布をはがし、昔の職人さんの仕事を見ながら作業を進めたのですが、昔の仕事ってのは
キレイだな〜。と感心しっぱなしでした。
糸の絡げ方、釘の打ち方、バネの置き方等々、自分が親方に怒られながら覚えて行ったことが、そのまま教科書通り
目の前に拡がっていました。



ホントはワラ土手もないのですが・・・。
 張り替えは、まず麻テープ(力布)で受けを張り、

 バネを並べ、セル糸で力布に絡げた後、バネ糸で編んで行きます。


そして「受け」を張り、ワラ・ファイバーで下地を作り、下張りを張ってからウレタンクッションを載せ、
さらに「かぶせ」を張ったあと綿を載せて、下ごしらえは完成。

見ちがえった?

その後、表地を張り完成です。


現在よく使われる、ベニヤ板にウレタンを接着して下ごしらえお仕舞!という仕事に比べて、ばらバネ、ワラ土手の仕事は
下ごしらえの手間が何十、何百倍もかかる気がします。
見た目は同じでも、座り比べるとまったく異なる座り心地。
この椅子はどうしてこんな値段なんだろう。と思うとき、その中身にまで考えがおよぶと
家具の見方が面白くなってくる気がします。



PS. 
最近口の中に5分釘を入れて、マグネットハンマーで釘を打っていく作業が大好きなことに気がつきました。
できることなら一日中釘を打っていたい。。。

張り屋玄翁ともいう。

次回はこのマグネットハンマーのことを書きましょうか。




さあ、遠慮せずに