2014年12月28日

修理のしごと


町田の古着屋さんから店舗什器の修理を依頼されました。

Made in USAだけは判るのですが、製造年も何用の什器だったのかもまったく判らず。

お店の方が落としてしまい、ガラスは粉々に、本体もほぞが折れバラバラになってしまったものを
修理しました。



おそらく40年以上前に製作された什器と思いますが、構造も材料のナラもとにかく上等なものでした。
昔はこんなのが当たり前だったんだろなあ。ウチにも欲しいなあ。作ってみようかなあ。


今年ももうお仕舞。昨日お正月だったと思っていたらもう1年経ってしまった感じです。
このリニア以上のスピードはなんでしょうか。
2014年もありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
よいお年を!





2014年12月1日

葉山・加地邸


10月、11月の週末だけ公開されていた葉山の加地邸を見にいきました。
まずはアプローチ。正面からは建物の見えない細い路地。大谷石が見事です。

三井物産のロンドン支店長を勤めた加地利夫氏が、1928年に自分の別荘として葉山に建てたこの住居、
設計はフランク・ロイド・ライトの高弟、愛弟子と呼ばれた遠藤新。

そこを抜けると、

遠藤さんは人の動きを水の流れにたとえて建築の動線を考えていた方で、この加地邸の建物へのアプローチも
感動的、情緒的な設定がされていました。

建物に到達。

そのような考えは、建物の中でも徹底されていて、動線だけでなく、人の視線の動きまで考えられ
設計者の思惑どおり水のように建物の中を回遊した気がしました。


フランク・ロイド・ライトといえば、落水荘などが有名ですが、ライトも建物を設計するのに
水や火の要素を重要視したのは有名な話です。
一番弟子だった遠藤さんもそのことから様々なことを学んだのでしょうか。



ちなみに邸内は撮影禁止でしたが、家具や建具なども建物と統一されすばらしいものでした。


   現在お孫さんが所有されている、というこの建物、普段は公開されていませんが
これからどのように維持・活用していくか検討中、とのこと。     
   願わくは常時公開のような形で遠藤建築を開放してもらいたいものです。   



   









2014年11月23日

溶けかけたお菓子


建築家の方からの注文で、山形の旅館のキーホルダーを製作しました。


材料はウォールナット。
現在使用しているキーホルダーを交換するため、新規に製作することになりました。
大きさ 75mm × 75mm、だいたいの形は決定していたのですが、本体の厚みや面の取り方は協議をしながらの製作になりました。

最初は本体面をちいさく曲面取りし、比較的角張った雰囲気のものができあがったのですが
さらにお客さんに工房に来ていただき、実物を見ながらその場で機械加工をして形をチェックしていきます。

「もう少し面を大きく」「もうすこしなだらかに」「なかなか難しいねえ」

2人で意見を交えながら最終的な形を決定しました。


機械での加工はすぐに終わるのですが、ここからの仕上げが大変でした。
部屋番号の加工、サンドペーパーでの仕上げまでの研磨、オイル塗装の仕上げ・・・。

小物なので家具以上に手触りを意識して、仕上げを行いました。
結果自分で言うのも僭越ですが、「触って気持ちよく、なんだか撫でつづけてしまう」触り心地に仕上がったと思います。

建築家のお客さん共々、2人してキーホルダーを撫でまわしながら
「触り心地もいいし、形も色も溶けかけたチョコレートみたいだ。いいですね!」
満足していただいたようです。


触ってみたい方、サンプルが工房に置いてあります。見てたもそ。





すべて並べると木目が通っています。







2014年10月27日

ソファーと羽毛と驚きと


全長2,5mという巨大なソファーを張り替えました。


イタリアはB&Bというメーカーが10年程前に発売していたソファー、との事。
いまはもう絶版になり製造していないらしいのですが、愛着を持って使用しているので
張替えができないか、というご相談でした。

最初相談に工房へいらした時はお客さんのお持ちしたカタログを見て、軽自動車並みのその値段に驚き
実物を拝見したときはその大きさに驚きました。

なんとかご自宅のマンションから搬出を済ませ、工房で裂地をはがし始めたのですが
次はそのソファーのあまりにも高度に洗練された企画・技術に驚きました。
普通、このようなソファーを見た時、自分たちのような特注ものをつくっている人間は
木部の構造はどうなってんだろ、と思いますが、このソファーは木部がまったく無く、
硬質ゴムの細いフレームに後はすべて発泡ウレタンの固まりで出来ていたのです。

幸い発泡ウレタンはヘタリがなく、チップゴムをすこし補充してベースを作れたのですが
もしも発泡ウレタンがへたっていたら全く手の出しようがありませんでした。
このような構造のソファーは大メーカーが膨大な時間と人間、そしてお金をかけ企画をし、大掛かりな生産設備を
製造し、そこからオートメーション的にソファー生産をするものなのです。

ま、まさか、そんなものがこの農家の納屋跡 工房へ来るなんて。と思いながら布地のパターンの型を取り始めましたが
デザインもまた高度で複雑なものでした。
たとえば、背中が角度を変えながらねじれて座面につながり、その座面も傾斜の角度と座の大きさが変化している、というものです。


これはゼロから作れ、と云われても・・・。などと思いながら張替えを進めたのですが、
今回は普段あまり採用する事のない羽毛のクッションを使用してみました。
ふかふか。

コストはグンと上がりますが、ウレタンゴムのみのクッションよりも「バフッと」した座り心地になります。
そして羽毛の下は固めのウレタンクッションを入れ、体をしっかりと支えてくれるようにしました。

量産メーカーのソファー製作の仕方、普段あまり使うことのない材料へのアプローチなど
勉強になることが非常に多い仕事でした。
ただ、まだ学習していないことは、いまだに張り替え前のソファーの写真を撮り忘れ続けることでしょうか。




2014年10月11日

あれこれ考える



椅子をデザインしています。

世界には様々な椅子があり、私たちもそれらを参考にしたり反面教師にしたりもして椅子を考えます。

時代や国ごとにいろんなデザイナーがいますが、やはり椅子デザインで一番著名なのは
この人、ハンス・J・ウェグナー。



デンマーク出身のこの人、90年以上の生涯でデザインした椅子の数は500脚はくだらない、と云われています。
自分も椅子を考えるにあたり、彼の様々な椅子デザインを、文献を紐解くように図面を眺めたりしていました。

するとある時、ウェグナーの指向の変化という面白いことに気がつきました。

彼の若い頃の椅子というのは、もちろん実利面も考えてありますが、そのような事の他に
人の目を引くようなデザイン、華のある形の椅子が比較的多い事に気がつきました。

それがだんだんと後期、晩年に近づくにつれて「製造コスト」「座り心地」「耐久性」といった実用的な面が
より椅子デザインでのウェイトを占めていったような印象を受けたのです。
それはまるで面識のない、このデザイナーの生涯を伝記映画か何かでなぞっているような気がしました。

人が変われば椅子も変わる。
当たり前の話ですが、ウェグナーのような巨匠でもやはりそれは当てはまるのだ。
そしてそれぞれの時期のデザインを見て、ウェグナーがその時何を考えて図面を引いていたのか。
そんなことを考えながら彼のデザインした椅子を眺めてみるのも楽しいものだな。と思いました。







2014年9月18日

玄関用?




横浜青葉区Oさまのご注文で一人掛けのスツールを製作しました。
材料はチェリー。
大きさは幅400mm × 奥行き300mm × 高さ380mm。
少し大きめの座面、少し低めの座高です。


ある日、ご夫婦でいらしたOさま。別のお仕事の話でいらしたのですが
なぜか追加でスツールの注文をいただき、なぜか追加の仕事を先に納める形になりました。

お話では玄関で靴を履くときに座る腰掛けが欲しい。とのこと。
最初はデザインのスケッチを起こし、それで打ち合わせを・・・と話していたのですが
「定番商品にしたいスツールやし、作り直しでもいいから先に形にしてお見せしよう」と
スイッチが入った結果、こうなりました。



このスツール、脚を製作しているときに少し太すぎる気がして、それを5mm細くしようか随分悩みました。
実際はそのままの太さで製作をして、完成したものはバランスのいい形になったと思うのですが
新しいものを作るときは相変わらず些細なことを考え、それが気になり手が止まり、完成までに時間を費やす・・・。

この形にならない時間がどうにかならないものか、と思いますが、この模索がないと
ただの自己模倣の繰り返しで仕事を進めて行くのではないか・・・と考えたりもしています。

そうして悩みたまえ。
でもそれだけじゃア、仕事にならないよ。


納品後記ですが、お客さんにスツールをお見せしたところ、喜んでOKをいただきました。
「座りやすいし、玄関に置いておくのはもったいない!リビングの方で使いつづけるかも」

いつもこの言葉で救われます。









2014年8月30日

トグル・チェスト

トグル・チェスト



このチェスト、引き出しが24杯もあります。
ひとつの引き出しを基準に他を削り合わせようとするのですが、
その日の天候で板材が動いてしまい、基準が変わったりと、予想通り製作は非常に苦労しました。

またこれだけ時間をかけると、自分の中でも製作するモチベーションを保つのが
大変になってくるのです。

昔の古い薬局や、その他からインスピレーションを受けてデザインが決まったのは
以前書きましたが、好奇心と思いつきから始めたこのチェストの製作が苦痛に感じることはなかった、とは言えません。

しかし逆に、そうだからこそ完成したときの嬉しさと開放感は、なんとも言えないものでした。



ちなみにこの引き出し、ぜひ「つまみ」にもご注目ください。

古い飛行機や車の操縦席にあった「トグルスイッチ」
それをイメージして形が出来上がりました。
こういうやつ

前板の美しさを邪魔しないうえ、数が多いので並んで美しく、スッキリした形の
つまみを考えているうちに、頭の中に閃きました。

これもまた非常に手間のかかる形で、製作中のつまみを見た友人には
「なんて面倒なことを・・・」と呆れられましたが、終わった今はああ作って
よかった、などと考えています。
製作途中に整列。兵馬傭みたいですな。



このように、普段はなかなか作らないであろう家具を製作するのは
設計や製作・コストなどいろいろと勉強になりました。
その中で一番の課題は時間がかかりすぎたことでしょうか。
仕事に追われ、時間に追われているうちに季節は変わっていきました。

露往霜来・光陰矢の如し。




こけた。



2014年8月17日

ローズウッド



ローズウッドで細工をしています。

世界中で木材資源の減少が進んでいる昨今、このローズ材もその例にもれず
各地の産地での乱伐採による稀少化で、さらに投機的な性格を強める悪循環をくりかえしています。

削るとバラの香りがする、といわれるローズウッド。
加工していると、作業場にふわりと独特の香りが広がります。






2014年7月12日

椅子・再張り直し


以前張り直したドクターチェア、ふたたび座面の張り直しをすることになりました。
時間とともにクッション部のワラ柴がへたってしまったのでクッション材を補充するのです。

まずは裂地をはがします。
底張りをはがした所、バネには異常がなく安心しました。


前回再利用したワラ柴はへたりが早かったので、今回は新しくパームロックを詰めることにしました。
パームロックはヤシの繊維をラテックスと結合させたクッション材です。

クッション材は、弾力・耐久力・油の多さから、馬毛が一番最高!と以前親方に教わったのですが、今はあまりにも
稀少なものになってしまいました。

そこで馬毛の廉価品として現れたのが「マホラン」と呼ばれているクッション材。
こちらはユリ目の植物マオランの葉っぱを細かく裂いて繊維状にしたものですが、このマホランもいつの間にか市場から
姿を消してしまいました。
自分も椅子張り屋さんに勤めているころ、1、2回目にしたきりでした。




そしてさらに代替品として世に現れたのが、このパームロック。
場所によっては「ファイバー」と呼ばれていたと思います。

このパームロックも工程的に今ではほとんど使われなくなってしまいましたが
今回の張り直しのために、伝手を頼ってあちこちの椅子材料屋さんにかたっぱしから声をかけ、かたっぱしから断られていました。
「う〜ん、今どきそんなもの無いなあ」「ウレタンチップ使うしかないよ」

(ソンナコトハ ワカッテイル)
と思いつつ、せっかくの昔の椅子を昔のまま張り直して欲しい。というお客さんの
注文を叶えることはできないのかな。と頭を抱えている時でした。

同業者の所に顔を出したところ、そこに今まで付き合いのなかった材料屋さんがおりました。
また断られるのかな。と思いながらその材料屋さんに顛末を話すと・・・

「ん、パームロック?うちはあるよ。いくらでも手に入る」

その力の抜けた心強い言葉に、こちらもずっこけつつ、嬉しくて小躍りしたのを覚えています。



まだまだ詰めます。

ようやく手に入った詰め物。心置きなくたっぷりと補充しました。





座り心地も格段に良くなったのですが、お客さんにはどう評価されるのでしょうか。
納品を前に緊張したりもしています。







・・・そういえば最近、工場にヤモリがよく出ます。
文字通り家をお守りください。






2014年6月25日

水無月と紫陽花



工房入り口にて。

たまにゃアあたしも花を見て「ああ、きれいだナ」なんて思いますよ。ええ。梅雨の合間だしね。










2014年6月5日

ギャラリーテーブル

展示テーブル納品


三重県伊賀市のギャラリー「アートスペースいが」に展示台 兼 レセプションテーブルを
納品しました。


材料はタモ材。幅2.1m、奥行き80cm。部屋の回遊を妨げない、いちばん大きいサイズ。
なかなかのヴォリュームです。


こちらのギャラリー、この7月からのオープンのため建物を新築し、準備を進めています。
建物が立ち上がり、内装を進める段階でギャラリー内部に置く展示台をどうするか、の話が出たようです。

そんな時に共通の知人のいるお施主さんと、ギャラリー設計の建築家さんがテラモトに白羽の矢を立てて製作依頼してくだすったようです。
その選考の理由が、建築にも展示の作品にも邪魔をしない家具の作風であること、という条件だったようです。

自分を前面に押し出し、すぐに飽きるような家具を作りたくないことを信条に製作をしてきた私としてはそれを聞いてなんだか嬉しくなった事を覚えています。
(商売としてはもっと目立たなければ。とも思うのですがネ)



製作は建築家さんの起こしてくれた図面を見て、家具としての納まりや材料についてのあれこれを打ち合わせてスタートしました。

無垢材のテーブルの場合、普通は天板の裏側に「吸い付き桟」という材の反り止めを入れるのですが、今回は「とにかくスッキリさせたい」という事で、厚みのでない鉄の反り止めを埋め込む事にしました。

強度を出すため、平板ではなくL型の鋼材をチョイス。

埋め込みの溝を掘り、埋め込みました。
年代物の年寄りもがんばる。



今回、普段はあまり使わないタモ材を使ったのですが、家具の形によってはあまり和の雰囲気にならない事に気がつきました。

タモ=和っぽくなる。と思っていた自分の食わず嫌いだったようです。
建築家さんなど、他の人のデザインしたものは普段の自分の発想にない刺激を受けます。
家具と建築との関係や材料のこと、いろいろと勉強になったテーブルでした。






追記
今回納品に訪れた三重県の伊賀上野、古代から交通の要所として栄え、江戸時代には伊賀上野藩の城下町として栄えただけあって市内には古い町並みが残されていました。




松尾芭蕉の生家や、板倉準三の設計した市役所庁舎など、まだまだ見たいものが
あります。
今回は往復850kmの納品でくたびれましたが、一度ゆっくりお邪魔したいものです。





ギャラリー「アートスペースいが」
三重県伊賀市上野福居町3337
0595-21-3473

建築設計「根岸正典・計画工房」
神奈川県藤沢市市川名2-1-2-4F
0466-27-0432




2014年5月23日

最近のいろいろ


近ごろ、椅子の木部修理の仕事をいただきました。


椅子のアキレス腱ともいえる、後ろ脚の接合部のホゾが折れてしまったようです。
まずは椅子を分解して部品を作り直すのですが、分解して、思ったより
複雑な構造の椅子だったことに気がつきました。


折れた部品を作り直し、
同じ部品を作るのは意外とムツカシイ。

無事組み上げ納品したのですが、ビフォア・アフターの写真を両方撮ってありません。
そこが一番の問題です。




2014年5月6日

研ぎ


最近、刃物の研ぎがおざなりになっている気がしたので
もういちど一から練習をするつもりで鉋を研いでいます。

根気よく徹底的に。

その時の精神状態で研ぎ上がりが全く違うのですが、それではまだまだだナ。と思っています。
頭がややこしくなった時は刃物研ぎで思考の整理。

よく切れる刃物は気持ちよく仕事が進みます。






2014年4月21日

小椅子張り直し


スツールをご注文いただいた、横浜保土ヶ谷区のTさま、
小椅子張り直しの注文もいただきました。
座面、もう落ち込んじゃってますね。

30年以上前に神戸で誂えた、というこの椅子。鏡台とセットでお使いになり
随分お気に入りでしたが、現状座る事ができず、気になっていた、との事。

早速中身を開けてみました。


・・・なるほど、もうベースのテープが切れて、ウレタンも粉状に劣化が始まっていました。
まずは全てを剥がし、ウェービングテープを引きます。


そしてウレタンを交換、下地つくりです。

椅子張りの親方の下で働いていた時、よく「下ごしらえで椅子張りは決まんだッ!ごまかせねえからしっかりやれよ」
などと叱られていたことを思い出しました。

生粋の神田っ子でさっぱりしているが気が短く、よくもまあ、何年間もあそこまで叱り続けてくれたものだ、と思います。
しかし意地が悪くなく、こちらとしっかり向き合ってもらっているのが判るので素直に聞くことができました。
また、非常に人情の機微にとんだ怒り方で、根に残ることもありませんでした。
いま思うとひたすら感謝感謝です。(すこし頑固でしたが)

近々遊びに行きますね、親方。


布地は痛みも少なく、剥がしたものをそのまま使ってほしい、という事で
今回は「張替え」ではなく、「張り直し」をしました。

布剥がしの時、傷をつけないように気をつかいながら作業をし、張り込みです。
復活!!

この張り直しも非常に喜んでいただきました。
お気に入りの家具がまた使えるようになるのは、確かにうれしいものです。

Tさま、ありがとうございました!







さあ、遠慮せずに