2018年12月5日

昭和は遠くになりにけり


キャリアをスタートさせた頃、よくお世話になった椅子張りの親方の
所へ手伝いに行った。
都内三田のど真ん中、ビルの谷間の細い路地。そのまた奥の「こんな所に?」
という場所に、ひっそりと木造の作業場が建っている。

15年ぶりに開ける木製の引き戸。奥から出て来る親方は、すこし老けたかな?
と思う以外は何も変わらない。その人懐っこい雰囲気と優しさから、
自分たち小僧が「三田のパパさん!」と慕っていた面影は変わらない。

御年を聞くとなんと83歳の現役の張り職人。
昔話をすると、まだ東京タワーは無かった。とか、新幹線が走り出した。
とか目眩のするような話。

親方の工場の周りも建物がどんどん無くなり、目まぐるしく変わっていく。
そんな景色の中で、ここだけはすべてがゆったり止まったような不思議な感覚だ。

腕のいいことで評判だった「芝の職人」と呼ばれた人たちの、
おそらく最後の世代の親方。
往時は威勢のいい職人衆が闊歩し、家具の街と呼ばれた新橋・芝界隈の賑わい。

いまはもう遠くなった時代。
そのわずかな残香を感じながらの一日。




さあ、遠慮せずに