2015年8月5日

やっとできた。ハイバックチェア


家具屋の最重要課題として、以前から作らねば、作らねば。と呪文のように
唱えていたオリジナル椅子製作。
苔の一念、岩をも通す。呪文が通じたようです。


材料はチェリー、座を椅子張りで仕上げました。

注文してくだすったのは、おなじみ三重県のBさん。以前据え付けベンチとテーブルを納品しましたが、そのとき同時にダイニングチェアのご注文もいただいていました。

製作の順番から椅子は後納品にさせてもらったのですが、テーブルの納品時に普通の背さのダイニングチェアの原寸モックアップを製作し、B君に見てもらいました。
するとB君、おそろしく真剣な目つきでその試作品を眺め始めました。
そして・・・

「ん〜、これなあ。。。もうすこしなあ。。。ハイバックがええなあ。」
「え?」
「ハイバックがええ!これじゃあこの空間に負ける!もっと!もっと存在感が欲しいねん!」
「存在感?」
「そうや!こんなに背が低いともう・・・空間に負けてる!」
「普通の椅子はだいたいこんな高さやで」

「さらに後脚から背が弓なりで、脚が踏ん張ってる感じにして欲しい!」
「・・・」



手縫い。


またもやのやり取りの末、詳細が決まりました。
ここからの椅子の製作は結構な手間がかかります。

1  スケッチを起こし、大体のデザインを決定。
2  1/5の図面を引き、同スケールの模型製作、プロポーション決定。
3  原寸図を起こし、実物試作を製作。座り心地や細部を調整、完成形決定。
4  木部製作

他の人のやり方は判りませんが、だいたい皆さんこんな感じでしょうか。
今回のハイバックチェアは座面を張り込んであるため、さらに
座のクッション下ごしらえ・布地の型取り・裁断・縫製・張り込みまで行います。

こんな手間を考えると椅子製作は割にあわない仕事ですが、やはり華やかで面白い。



納品したB君にも「イメージ通り、イイよ!かなり!座り心地も気持ちイイ!」と好評で安心しました。


この後さらに背当たりの修正と細工をしました。

椅子の製作は時間がかかるため随分時間をいただきましたが、ようやくそれが済みました。
製作中は様々な困難と向き合いますが、いざ完成すると次に作りたい椅子が次々と湧いてきます。

いつも新しいことに挑戦する機会を作ってくれるBくんに感謝。
そして長らくお待たせしました。






1/5模型





2015年6月23日

鉋を買う


最近鉋を買いました。東京鍛冶で有名な「も作」こと神田規久夫さんの鉋です。

この神田さん、東京足立区のほうで鉋鍛冶をし、よく切れる。と評判なのですが、最近は高齢のためか
製品が出回ることもあまりなく、どの道具屋さんに聞いても「今は扱っていない」という返事ばかりでした。

ところが、ふとしたきっかけで話をした別の道具屋さんに在庫があり、在庫の7寸台(210mm長)の台を
希望の8寸台(240mm)に作り直して販売できる。ということになりました。
こうなるともう我慢できません。いても立ってもいられず、すぐに台の打ち直しを注文し、そして届いた鉋の
ヤスリ目の美しさにうなり声をあげました。

48mm幅。これから仕込み。


今回自分が鉋を買うにあたって「東京鍛冶」にこだわったのは理由があります。
東京には石堂鉋という、名門と呼ばれる鍛冶屋さんがあります。
この石堂さん、何百年と続いた刀の鍛冶屋が転身して鉋鍛冶を始め、現在は栃木に移転。
石堂良孝さんが50代の若さで跡をついでいます。

自分が以前勤めていた都内の木工所の先輩が、その良孝さんと幼なじみだったのです。

ある日の会話。

「Sさん、石堂さんていう昔ッからの鉋の鍛冶屋さんが東京にあるらしいですね」
「お前鉋買うの?そこ、東京のどこだ?」

「恵比寿らしいです」

「・・・恵比寿の石堂?・・・あっ!俺知ってる」

「えっ!いま良孝さんって人がやってるらしいですよ。どうして知ってんすか?」
「石堂って俺の幼なじみの家だよ!あそこは鍛冶屋だったんだな。いま良孝が跡ついでんのか。あいつは小学校の・・・」

「こんなに近い仕事なのに鍛冶屋って知らなかったんですか?」
「知らねえよ。ガキの頃から親父さんがなんかやってんな。とは思ってたけど」

意外なところから話がつながり、さっそく石堂さんの電話番号を聞き、直接先代の女将さんと話をしました。

「Sくんのお知り合い?そお、Sくんいま家具屋さんにいるの。知らなかった」
幼なじみとは面白いもんです。


昔の東京の商売人らしい、歯切れのいい口調のお話を聞いたのですが、その時聞いた鉋の値段は立派なもので
当時の自分には手が出ないうえに、若い跡取りがいるのだからそのうち買おう。と思ってその話は
後回しになっていたのです。

そして数年経ち、いざ鉋を買おう。と思ったのですが、その連絡先は紛失していました。
さらにその良孝さん、ここ数年仕事を休んで、いま石堂鉋というものがほとんど市場に出てこなくなった。と
道具屋さんで聞きました。

せっかく東京近郊で家具を製作しているのだから、歴史のある東京鍛冶が無くなる前に
一丁くらい手元に置いておきたい。とこだわったのです。



今はほとんど鉋も使われなくなり、鉋なんかよりサンダーのほうが早くて楽、というのが大半の家具屋の正論でしょう。
しかし家具を製作している以上、やはり鉋を使うのは基本中の基本だし仕事の質も幅も広がります。
そしてそれ以上に、鉋もまともに使えないような人間がそんなことを言うのは何か違う気がしています。


自分ももっと修練をし、どんな鉋でも自由自在に使えるようになったら「ああ、サンダーのほうが楽やねえ」
そんなことを云ってやろう、と考えています。













2015年6月12日

四角いダイニングテーブル


町田市 Iさまからのご注文でダイニングテーブルを納品しました。
ベンチはショウルームから貸し出しです。

材料はチェリー。
2000w × 900d × 660h と、大振りの天板と若干低めの寸法のテーブルです。
Iさん、あちこちの家具量販店を見て回った揚げ句、工房に来ていただきました。
最初は耳つきのクリで作ろうか、T字脚にしようか、寸法はどうしようか。と
ご夫婦でケンカ 話し合いになりました。
そして結局オーソドックスな4本脚のデザインに決定しました。






形がシンプルな分、素材のチェリーの存在感が非常に目立つテーブルになりました。
1年後には綺麗な褐色に変化していることでしょう。



そして今回、ダイニングチェアーの改造・張り替えまでご注文いただいたのですが、
注文をいただいたIさん、家具の使い心地や納まりに非常に気を使われる方で、果たしてどのような方なのだろう。と
お話を聞くと、様々なことに興味をお持ちの趣味人だと判明しました。

写真、陶芸、旅行、自転車 etc,etc・・・。
そんな方にテーブルを選んでいただき光栄に思っていたところ、一言いただきました。
「やっぱこのベンチいいね!これも作ってよ」

ごっつぁんです。
またお二人でケンカ 話し合いが始まり、仕様が決定しました。
がんばります。




2015年5月22日

カウンター下に収納を


横浜青葉区Tさまのご注文で、カウンター下にオープンの棚を製作しました。

材料はチェリー。 寸法は1480w × 1018h × 210d
新居に引っ越されたTさん、横積みになっていた本の収納場所と、キッチンカウンター下のデッドスペースの
有効活用として注文いただきました。


収納する本に対して、縦寸法も奥行き寸法もシビアなこの場所。強度と使いやすさでせめぎ合い、背板を無しにして
部材の板厚を薄くすることでCDや書籍のスペースを稼ぎ出しました。

出巾木やカウンター天板との兼ね合いもあり、また建築が相手なので、直前に棚の天板を
0.5mm削ったりとバタバタしました。


納品の日は高さを調整する道具一式と、不安を持って現場にお邪魔したのですが、両方とも杞憂に終わりました。

無事納まった棚にうきうきして本を立てかけて行くTさん。
手直しもなく納まった安堵と、そのリビングの柔らかい光と心地よく抜けていく風。
この棚がこれからどのような変化をしていくのか、楽しみです。





・・・関係ありませんが、現場がうまくいった後、コンビニでついつい
食べるものがあるのですが、この納品の帰り道で頬ばったそれも
とにかく美味かった。

閑話休題です。




2015年5月2日

靴脱ぎに・・?


横浜青葉区のSさん宅にスツールを納品しました。

Sさんとは他の仕事で何度かご注文をいただいているのですが、今回は玄関まわりで靴を脱ぎ履きする
台をつくってほしい。というお話でした。

ひょっとしたら屋外でも使う。というお話だったので、まっ先に浮かんだのは耐水・対汚をどうしよう
か、ということでした。
そのためにコストや入手しやすさを考慮し、材料は栗材を選択しました。
栗はひさしぶりに使うのですが、なんとも優しい雰囲気の材料です。
自分も定番材として扱うことに決めました。


このスツール、その使用目的から、おおまかなデザインは自然と出来
上がったのですが、その他にも細かい意匠を加えてみました。

Sさん、納品したスツールをご覧になって「あぁ、もったいなくてしば
らくは使えない!」
喜んでいただけました。いつもこの声を聞くたび、どっと安心します。

最近、とろけるような感じ、好きです。



私見ですが、近ごろ世の中のプロダクトが「ぐわっとした」押し出しの強い、
すこし過剰なものが主流になっている気がします。
それはそれで存在感があるのですが、なんだかあまりにも強いものばかりに囲まれる生活はどうなんだろう。
この潮流が変わったとき、それらはアッという間に陳腐なものになるのではないか、と考えてしまいました。
「ああ、あの頃はこうだったね〜。今見るとなあ・・・」なんてね。

もちろん世の中の流れとつながってものを考えないといけないのですが、
では自分はカワイすぎない、どこか柔らかい雰囲気の家具を作ろう。と
思っていますが、なかなか。

古びないけど飽きられない形ってどんなだろう。今日も図面を前に頭を抱えています。





2015年4月4日

南会津の旅1


丸太材を買おうと思い、福島県は南会津まで旅に出ました。
先週、三重県に納めたテーブルの後釜の材料探しと、以前よりの念願であった
丸太買い・製材・桟積み乾燥に手を出そうと考えたのです。

南会津に、丸太の販売を小売相手でも丁寧にしている材木屋さんがあり、そちらへ出かけました。
丸太を置いた土場。スケールが大きすぎて自分の感覚が狂いました。

今回初めて知ったのは、福島はとにかく東西横方向に大きい!ということでした。
三重出身の自分は、福島とは南北縦方向に大きい。と思い込んでいましたが
南会津からは太平洋へも日本海へもほぼ200km強。
福島の地図を見ると、南北3つに太平洋側から「浜通り」「仲通り」「会津」と地域が分けられ
さらにそれぞれも縦方向に相当な距離があります。

上京して知り合った福島出身の友人Y君が、初対面で「俺、Yだっけ、俺、Yだっけ」
と言うのを聞いて、『そんなん知らんわ。自分の名前忘れたんかい!』と心の中で突っ込んだのですが
それは福島なまり(彼は郡山だったか・・・)で「俺、Yだよ、俺、Yだよ」と言っていた事を知って以来の
感動に似た福島との邂逅でした。




買い付けは初めて、という事もあり、行く前に購入を決心しておいた
クリの板材とナラはすぐに購入したのですが、
土場に転がっていたオニグルミ購入の決断に時間がかかりました。

岩手産・樹齢80年、大きさは長さ2.1m 径は47cm。少々曲がり、節有り。
材木屋さんは「これはなあ〜、いいんだけどねェ〜。初めて買うならもっとまっすぐで安全なのをおすすめするなあ〜」

頭の中はまっ白です。

自分の手持ちの予算と、わざわざ福島まで来たんだし。という気持ちと
目の前の丸太の値札とおすすめの丸太の値札。
材木屋さんがそこまで言うこの丸太。鋸を入れたら何が出て来るのだろう。
失敗するのかな。
でも1枚くらいは良い板が出るのでは?
でも失敗したら。
でもお値打ちだし。
でも。
でも。

すべてが一緒くたになって頭の中でどろどろになって回転しています。

悩みに悩んで言動が怪しくなった自分を見てか、材木屋さんが目の前の丸太にプライスダウンした
値段を提示してくれました。

「製材代込みでこれでいいですよ」

必殺の呪文です。駆け引きレベルの低い自分は一撃で倒されました。
午後から製材を始める事になりました。



南会津の旅 2


材木屋さんの一押しで購入したオニグルミ、午後一番で製材台に載せられ
さっそく製材の開始です。

製材は材をトロッコのような台に載せ、巨大な帯鋸で板材を挽いていくのですが
一番最初、どのように鋸を入れるかで材料の取り都合が変わってきます。
そのため、鋸を入れる前に製材屋さんと丸太を眺め回し、どのような材料が
欲しいのかよく話し合いをします。

昔、何度も親方の製材を眺めていた時は何も感じませんでしたが、自分の材料を挽くとなると景色が全くちがって見えます。
巨大な帯鋸の回転する轟音と、その責任感からまたもや頭の中が真っ白です。
すると材木屋さんが耳元で叫びます。

「他人の製材を見てるのと、自分の材を挽くのは全然ちがうんだよね〜!わっはっは!」

全く同感です。
結局材木屋さんのアドバイスにしたがって鋸を入れることにしました。


轟音の中製材台が走り出し、一番鋸で節と割れが出たときはドキリとしたのですが
材の中心に製材が進むうちその傷跡も消え
非常に色味のいいクルミ材を挽き出すことができました。
ウォールナットのような色。


製材が終わったら次は桟積みのため、皮を剥きます。
皮のすぐ下にある甘皮は木の成長部分で非常に栄養があるらしく、皮を剥がさないと
桟積み乾燥中に虫が入る可能性が高くなります。その予防策です。




南会津での作業はここまで。後は製材した材料を東京郊外まで運び、桟積みをしました。


これから約2年天然乾燥させます。材は乾燥中にねじれや割れが入ったり、虫害を受ける可能性があるため
こまめに観察する必要があります。
乾燥が終わる頃、このクルミは果たしてどうなっているのか。そしてそのころ自分はどうしているのだろう。
こんな長いスパンで物事を見守るのも近頃なかなか無いことで、材の仕上がりを考え待ちながら暮らすのも面白いものだな、と思いました。

木工をしていてもなかなかご縁のない丸太買い。
材料屋さんに電話一本をかけると製品化された木材が届けられるような時代ですが
自分で足を運び、丸太の状態から材料を切り出し桟積みする。
非常な手間ですが、そこまで手を出すことで見えてくる木や材料、日本の林業や製材の現状。
家具を製作するという行為にもよい刺激を受けました。



今年は暖かくなり丸太もシーズンオフに入りました。
秋口に入り気温が下がり出したころ、また会津に出かけようと思います。


南会津への旅程での美しい景色。
宿の民宿では炉端で岩魚に舌鼓を打ちました。





追文


今回の福島への単騎行、材料以外にも色々と考えさせられる事がありました。

こんな事を言っては何ですが、東京では何となく東日本大震災は
もう他人事、済んだ事。という空気が流れている気がします。

しかし福島のローカルニュースで毎日流れる原発・放射能のニュース。
地元の人や宿の女将さんから聞く「フクシマ」への風評被害や県内での
差別意識の発生の話・・・。

東京やその近郊に暮らす自分たちは、何も終わっていないのに何を
終わったような顔をしているんだろう。と思いました。




さあ、遠慮せずに