バネ張り椅子 修理
大田区のお客さまからのご注文で、
座のバネが落ち込んでしまった小椅子を修理、張り直ししました。
目黒の骨董屋さんで、「優美で可愛らしい姿に一目惚れ」して購入した小椅子。
修理のご相談を受けた時は、木部はガタが来て、座のバネは落ち込んでしまっていました。
しかし、「一度はしっかりしたこの椅子の座り心地を体験したい」というご依頼で
座面に手を入れることになりました。
そこで座を下地まで全て剥がし、木部の仕口を取り直して再組立、
バネを吊り直し、藁土手を刺し直し、クッションにパーム材を詰めて、
元の張り地で張り直しをしました。
剥がしての釘や手跡から推定できることは、おそらくこの椅子は
最初ヨーロッパ(フランス?)で製作され、その後、一度か二度張り替えられ
日本にやってきた後、化粧程度に軽く手を入れられた。しかしその間、木部や
バネ等の基部に手が入れられることはなかった。ということでした。
見た目や大きさのカジュアルさとは裏腹に、オリジナルの中身は、馬毛や
高度な土手刺しの技術で製作されており、修行中、年寄りの親方たちが
「昔はこういうものがあった。こういうものをやったことある」と話して
いたようなものでした。
現在は手に入らなくなった材料を、入手できる材料に置き換えたりしての
張り直しでしたが、それでも全て天然素材の材料での置き換えが可能でした。
手間はかかりますが、かつては、それこそ身の回りのもので身の回りのものを
製作していたんだなあ。と感じました。
無理なくゆっくり回っていく。理想的な世の中を考えていました。