2015年6月23日

鉋を買う


最近鉋を買いました。東京鍛冶で有名な「も作」こと神田規久夫さんの鉋です。

この神田さん、東京足立区のほうで鉋鍛冶をし、よく切れる。と評判なのですが、最近は高齢のためか
製品が出回ることもあまりなく、どの道具屋さんに聞いても「今は扱っていない」という返事ばかりでした。

ところが、ふとしたきっかけで話をした別の道具屋さんに在庫があり、在庫の7寸台(210mm長)の台を
希望の8寸台(240mm)に作り直して販売できる。ということになりました。
こうなるともう我慢できません。いても立ってもいられず、すぐに台の打ち直しを注文し、そして届いた鉋の
ヤスリ目の美しさにうなり声をあげました。

48mm幅。これから仕込み。


今回自分が鉋を買うにあたって「東京鍛冶」にこだわったのは理由があります。
東京には石堂鉋という、名門と呼ばれる鍛冶屋さんがあります。
この石堂さん、何百年と続いた刀の鍛冶屋が転身して鉋鍛冶を始め、現在は栃木に移転。
石堂良孝さんが50代の若さで跡をついでいます。

自分が以前勤めていた都内の木工所の先輩が、その良孝さんと幼なじみだったのです。

ある日の会話。

「Sさん、石堂さんていう昔ッからの鉋の鍛冶屋さんが東京にあるらしいですね」
「お前鉋買うの?そこ、東京のどこだ?」

「恵比寿らしいです」

「・・・恵比寿の石堂?・・・あっ!俺知ってる」

「えっ!いま良孝さんって人がやってるらしいですよ。どうして知ってんすか?」
「石堂って俺の幼なじみの家だよ!あそこは鍛冶屋だったんだな。いま良孝が跡ついでんのか。あいつは小学校の・・・」

「こんなに近い仕事なのに鍛冶屋って知らなかったんですか?」
「知らねえよ。ガキの頃から親父さんがなんかやってんな。とは思ってたけど」

意外なところから話がつながり、さっそく石堂さんの電話番号を聞き、直接先代の女将さんと話をしました。

「Sくんのお知り合い?そお、Sくんいま家具屋さんにいるの。知らなかった」
幼なじみとは面白いもんです。


昔の東京の商売人らしい、歯切れのいい口調のお話を聞いたのですが、その時聞いた鉋の値段は立派なもので
当時の自分には手が出ないうえに、若い跡取りがいるのだからそのうち買おう。と思ってその話は
後回しになっていたのです。

そして数年経ち、いざ鉋を買おう。と思ったのですが、その連絡先は紛失していました。
さらにその良孝さん、ここ数年仕事を休んで、いま石堂鉋というものがほとんど市場に出てこなくなった。と
道具屋さんで聞きました。

せっかく東京近郊で家具を製作しているのだから、歴史のある東京鍛冶が無くなる前に
一丁くらい手元に置いておきたい。とこだわったのです。



今はほとんど鉋も使われなくなり、鉋なんかよりサンダーのほうが早くて楽、というのが大半の家具屋の正論でしょう。
しかし家具を製作している以上、やはり鉋を使うのは基本中の基本だし仕事の質も幅も広がります。
そしてそれ以上に、鉋もまともに使えないような人間がそんなことを言うのは何か違う気がしています。


自分ももっと修練をし、どんな鉋でも自由自在に使えるようになったら「ああ、サンダーのほうが楽やねえ」
そんなことを云ってやろう、と考えています。













さあ、遠慮せずに